平成29年7月九州北部豪雨による未曾有の災害
強い日差し、うだるような蒸し暑さで5分もすれば体全体が汗でびっしょり。そんな厳しい環境での力仕事でした。
平成29年7月5日から6日にかけて、線状降水帯による記録的な豪雨が九州北部を襲い、死者37人、行方不明者4人、避難生活者2000人以上という未曾有の大災害が発生しました。水道や電気などのライフラインは壊滅状態。道路はくずれ、ブドウやモモなどの果樹園は土砂に流され、家屋はどこもかしこもめちゃめちゃに壊れ果てていました。
僕はそれまで災害ボランティアを経験したことがありませんでした。自分が被災したことはないし、自然災害なんてテレビの向こう側の世界、くらいにしか正直思っていませんでした。ですがその前の年、少し話題になっていた防災士の資格を取得して、以前よりも防災・減災について意識するようになっていた矢先、自分が住む所からすぐ近くの福岡や大分で大きな豪雨災害があり、あまりにひどい映像をテレビで見て、他人事に思えず災害ボランティア(復興ボランティア)に行くことにしました。
災害ボランティアへの参加
ネット検索で調べた受付場所に到着すると、県や市の職員、NPO法人の人たちが忙しそうにしつつも要領よくその場を取り仕切っていて、僕は指示されるままに注意事項などのレクチャーを受けて、比較的スムーズに現場へとバスで移動となりました。派遣先は被害が大きかった福岡県朝倉市のとある集落でした。そこでもNPO法人の人たちがテキパキと指示を出していて、僕は大きなシャベルを貸与され、山間にある一軒家に向かいました。家の中に入ってまさに絶句。家屋の半分くらいが高さ1.5メートルほどの土砂に埋まっていました。
土砂はシャベルでかいてもかいても減りません。ほかのメンバーと交代しながら、ひたすら体を動かしました。これは経験して初めてわかったことですが、土砂をかき出す作業はとても体力を要します。
ひとりで延々と続けられる作業ではありません。また押し入れの中にある服や布団は泥水を吸っているので非常に重く、持ち出すのにもひと苦労でした。タンスの引き出しも泥が引っかかって力を込めないと開きません。15分作業して5分休憩。熱中症にならないように、とにかくこまめに水分を補給しながらの作業でした。水やスポーツ飲料は十分な量が本部から届けられ、家屋の所有者のおばあさんが水で冷やしたブドウの差し入れをしてくれたのが有り難かったです。
「どこから来たんですか?」
声を掛け合ったボランティアのメンバーの人たちは、僕と同じく近隣の県から来た人が多く、消防署の職員や飲食店の経営者、数人の高校生もいました。1日かけても作業は終わりません。僕は休日を利用して1日限りのボランティアでしたが、どう考えても数日で片付けられるようなレベルのものではありませんでした。
ボランティア活動を通して学んだこと
翌日は体全体が筋肉痛で困りましたが、ボランティアの参加は僕にとって、とても意味がある貴重な体験になりました。というのもそれ以降、自然災害のニュースを見る目が変わったと思うからです。どこかで土砂崩れが起きている映像を見ると、朝倉市の集落で見た被災現場を思い出し、今、災害が起きている現場の状況がなんとなく肌感覚で分かるような気がするんです。これは実際に現場に行って、自分の体で被災の怖さをわずかでも経験したからだと思います。防災士の試験とは違った観点からの学びと気付きでした。ボランティアは毎回行けるものではありませんが、また同じような災害が近くで起きた場合は積極的に参加してみようと思っています。
またレクチャーでの注意事項も納得ができるものでした。特に印象深かったのは、「家屋の写真を撮らないでください」という指示です。ボランティアに来ているのであって、記念になるような活動ではないと。写真は場所の特定につながりますし、被災した人たちの心情を汲むと、そうした行為は不適切だろうということです。もちろん教育目的などで別の機会にたずね、家屋の所有者の方がOKしてくださる場合はその限りではないと思います。
日頃の備え
防災グッズはやはり日頃から準備しておくべきだと思います。避難所に行ってもそれなりの不便はあるようです。以下は日頃から備えておきたい非常持ち出し品の例です。これらをリュックにひとまとめにして、すぐに取り出せる場所においておくといいでしょう。そのほか備蓄品も整えておくと安心です。(資料:政府広報)
防災バッグの中身
飲料水
食料品(カップめん、缶詰、ビスケット、チョコレートなど)
貴重品(預金通帳、印鑑、現金、健康保険証など)
救急用品(ばんそうこう、包帯、消毒液、常備薬など)
ヘルメット、防災ずきん
マスク
軍手
懐中電灯
衣類
下着
毛布、タオル
携帯ラジオ、予備電池
使い捨てカイロ
ウェットティッシュ
洗面用具
乳児のいる家庭はミルクや紙おむつ、ほ乳びんなども
備蓄品
飲料水…一人1日3リットルを目安に、3日分を用意
食品…ご飯(アルファ米など一人5食分を用意)、ビスケット、板チョコ、乾パンなど、一人最低3日分の食料を備蓄
下着、衣類
トイレットペーパー、ティッシュペーパーなど
マッチ、ろうそく
カセットこんろ
※非常に広い地域に被害が及ぶ可能性のある南海トラフ巨大地震では、「1週間分以上」の備蓄が望ましいとの指摘もあります。
※飲料水とは別に、物を洗ったり、トイレを流したりするための水も必要です。日頃から水道水を入れたポリタンクを用意する、お風呂の水をいつもはっておくなどの備えをしておきましょう。
防災士について
防災士は、防災に関する一定の知識と技能を習得した人に与えられる資格です。日本防災士機構が認証する民間資格で、社会の様々な場面で防災力を高める活動、例えば災害発生時に公助が届かない緊急の場合などに現場リーダーの役割を担うことなどが期待されています。
ほかの資格と違い、就職や転職に有利になるような資格ではありません。ですが、防災関連の仕事に就いている人や地域コミュニティを取りまとめるメンバーなどが取得しておくと、いざ災害が起きたという時や防災訓練などにおいて信頼され、防災知識の活用により大きな役割を果たすことができるでしょう。
なお噂の域を超えませんが、昨今の異常気象による突発的な災害が増加する中、防災に関する知見が今後さらに重要視され、いずれ民間資格から国家資格に格上げされるのではという話もあるようです。
全国郵便局長会は全国すべての郵便局長に対し防災士の資格を取ることを推奨しています。
防災士試験
防災士になるには3つのステップを踏みます。
(1)防災士養成研修講座
日本防災士機構が認証した研修機関が実施する「防災士養成研修講座」を受講し、「研修履修証明」を取得します。
(2)防災士資格取得試験
日本防災士機構が実施する「防災士資格取得試験」を受験し、合格する(受験料3,000円)。受験するには、(1)の防災士養成研修講座の「研修履修証明」が必要です。
試験では3択式の問題が30問出題されます。試験時間は50分で、8割(24問)以上正解すれば合格です。合格率は高く、約90%です。
(3)救急救命講習
全国の自治体、地域消防署、日本赤十字社等の公的機関、またはそれに準ずる団体が主催する「救急救命講習」(心肺蘇生法やAEDを含む3時間以上の内容)を受け、その修了証を取得します。
以上の3項目を修了した人が、日本防災士機構への「防災士認証登録申請」を行うことが出来ます(申請料5,000円)。
最新の試験情報はこちらで確認を
認定特定非営利活動法人 日本防災士機構
防災士のメリット
1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに制度化された防災士は、近年、行政機関や民間企業、NPOなど、さまざまな職場で耳にするようになりました。突発的な自然災害に対する防災・減災がよりクローズアップされる現代においては、さらに注目されていく可能性があります。災害対応や危機管理に関連する業務を希望する際には有利に働く場合もあるでしょう。この資格だけで食べていくことは難しいですが、個人の知識向上に加えて地域社会への貢献に大きく役立つことからも、取得する価値はある資格といえます。
合格体験談
私の場合、自治体(県)の防災課に電話をして、県が行っている 地域防災推進員養成講座に参加させてもらいました。
この講座を受講すれば(1)の「研修の履修証明」と、(3)の「救急救命講習の修了証」が 同時にもらえることになっていたからです。
講座の参加者は、県の各市町村の防災担当や消防士、町内会の自主防災組織の メンバーだったりで、一般の素人だったのは私だけだったようです。
研修は合計3日間あって、それぞれ丸1日使って先生の講義を聞 いたり、グループになって防災地図を作ったり、救急救命講習などを 受けたりしました。
救急救命講習ではAEDの使用法や心臓マッサージの仕方などを ダミー人形を使用して学びました。
3回目の最終日、最後の授業が終了すると、少しの間を置いて、 日本防災士機構の人が教室に入ってきて、そのまま防災士試験に 突入しました。
試験勉強は3回の講義を受けただけでは足りません。
私は受講の際にもらったテキスト(300ページくらい)を、ゆっ くりと理解しながら読み進めていきました。
講師の先生は「テキストを3回読めば試験に合格できる」と言って いたので、その通りに3回しっかりと読みました。
試験は3択式、全部で30問。そのうち21問正解すれば合格です。 問題のほとんどは基礎的なことで、テキストを読んで理解していれ ば分かります。私は5問くらい解答に迷いましたが、それ以外は自信がありました。
気をつけなければならないのは試験を甘く見ないことです。少なくとも、まんべんなく勉強しなければ受かりません。
試験前に「簡単でしょ」と言っていた隣のおじさんは、試験問題 を見て「うーん・・・」と唸っていました。当然ですが、それなりの勉強は必要です。
私の場合、筆記試験の合格証明書は手元に郵送されてきましたが、研修の 履修証明と救急救命講習修了書は県から直接、日本防災士機構に 送られたので、それら2つの書類は手にしませんでした。
合格証明書のコピーや証明写真などを郵送するだけで、防災士に 認定してもらえました。
私は職場の関係でそれとなく取ったのですが、それまで知らなかった ことや誤解していた知識なども分かり、勉強して良かったと思ってい ます。災害支援は人心にも深い配慮が必要だったりと奥が深いです。
42歳男性(提携サイトより引用)